q19’s diary

日本語教育能力検定試験、エスペラント検定、HSKなどに言及するblogです。

Seven Proofs for the Subadditivity of Expected Shortfall を読んだ。

これを読んだのでmemo:
Embrechts, Paul and Wang, Ruodu. "Seven Proofs for the Subadditivity of Expected Shortfall" Dependence Modeling, vol. 3, no. 1, 2015, pp. 000010151520150009. https://doi.org/10.1515/demo-2015-0009

概要

ES (Expected Shortfall) の subadditivity (劣加法性) の証明を7つ紹介した論文。

補足

  • 金融機関は risk の定量化に興味がある。言い換えれば、risk を金銭で表示したい。
  • Risk を定量化する方法を、risk measure とよぶことがある。
  • Risk measure の一つで、非常に有名なものが、VaR (Value at Risk) である:
 \mathrm{VaR}_p (X) = \inf \{ x \in \mathbb{R} : \mathbb{P} (X \leq x) \geq p \},

where  p \in (0, 1), X is a random variable.

  • VaR は理論的背景が simple で理解されやすく、計算負荷も小さい。また、monotonicity (単調性) や translation-invariance (平行移動不変性) などの、risk measure として望ましい性質を有する。

  • 一方、VaR は subadditivity を有さないことが知られている。つまり、random variables  X, Y に対し、

 \mathrm{VaR}_p (X + Y) \leq \mathrm{VaR}_p (X) + \mathrm{VaR}_p (Y)

が必ずしも成立しない。

  • VaR とは別の risk measure として、ES (Expected Shortfall) がある:
 \mathrm{ES}_p (X) = \frac{1}{1 - p} \int_p^1 \mathrm{VaR}_q (X) dq.
  • ESはVaRが有さない subadditivity を有する。大げさにいえば、このESは subadditivity を持つからスゴイ、という点で有名になりすぎた。実際、日本アクチュアリー会資格試験の一次試験の損保数理でも二次試験の生保1でも、ES (あるいは CTE, TVaR が) 劣加法性を有することを知っているだけで数点獲得できることがあり、受験生は皆その事実を暗記する。
  • ところが、ESが劣加法性を持つことの証明は驚くほど知られていない。その証明を(7つ)紹介することが、本論文の主題である。

感想

  • ESが劣加法性を持つことの証明は思ったよりも一筋縄ではいかず、いくつかの lemma を必要とするもので、それが驚くほど知られていないことに納得した。
  • 久々に Radon-Nikodym derivative と再会し、多少確率論をかじっておいてよかったと思った。