q19’s diary

日本語教育能力検定試験、エスペラント検定、HSKなどに言及するblogです。

田山花袋『少女病』を読んだ。

少女を眺めるのが好きな四十路手前の男の話。

本書の少女は、十五から二十歳過ぎの女を指しており、現代の感覚でいう女子高生・女子大生にあたる。 男は小説家で、昔2、3本ヒット作を出したもののこの頃はぱっとせず、妻子がいながら年甲斐もなく少女に欲情するのを日課としている。

基本的に電車で見かける不特定多数の少女に場当たり的に欲情しているが、何人かお気に入りの少女がおり、そのうちの一人については、路上で落とし物を拾ってあげたことを記憶している。 また、この記憶を以って、当該少女からの認知を得たと確信している。

結局男は何ら犯罪的な行為に手を染めず、誰かに迷惑をかけるということもなく生涯を終える。驚いたのは、家庭内の場面が一切ないのにもかかわらず、家庭の存在を読者に常に意識させる点である。男が家庭を持つことで得るものと失うものを、具体的に指摘することなくそれとなく考えさせる作品だった。

30分ほどで読める。お手軽な分量である。

(221113追記)

本書の一節に以下があった:

男は少女にあくがれる

この「あくがれる」は「あこがれる」の古い言い方だと思ったのだが、 調べてみると「あくがれる」が「あこがれる」と同じ意味だと断定できなかった。

あくが・れる【▽憧れる】 の解説
[動ラ下一][文]あくが・る[ラ下二]《本来は、あるべき所から離れる意》
1 いる所を離れてふらふらさまよう。
「自分の魂が―・れ出して、…水の面を高く低く、揺られて行く」〈谷崎・細雪
2 物事に心が奪われる。うわの空になる。
「山林に身を苦しめ雲水に魂を―・れさせて」〈露伴・二日物語〉
3 胸を焦がす。思い焦がれる。
「其写真に頰摩 (ほおずり) して―・れ」〈紅葉・金色夜叉
4 気持ちが離れる。疎遠になる。
「おもておこしに思ひし君は、ただ―・れに―・る」〈落窪・二〉

古語の「あくがる」からきている模様。